The MOST in JAPAN 2024 岡山公演
エルガー/弦楽セレナーデホ短調
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第2番変ロ長調から第1楽章(渡邉桜子)
チャイコフスキー/『なつかしい土地の思い出』より「メロディー」(西江春花)
ヴィヴァルディ/四季「冬」第1楽章(西江春花)
チャイコフスキー/弦楽六重奏曲《フィレンツェの思い出》
ピアノ/渡邉桜子
ヴァイオリン/西江春花
ヴァイオリン:福田 廉之介、関 朋岳、小島 燎、廣田稜司(ルスラン・タラスから変更)、岡田修一、和田涼音(アカデミー生)
ヴィオラ:近衛剛大、渡部咲耶
チェロ:ミンジョン・キム、菅井 瑛斗
コントラバス:ダニエリース ルビナス
※登坂理利子(ヴァイオリン)は出演取りやめ
ヴィオラ:近衛剛大、渡部咲耶
チェロ:ミンジョン・キム、菅井 瑛斗
コントラバス:ダニエリース ルビナス
※登坂理利子(ヴァイオリン)は出演取りやめ
2024年10月25日 岡山シンフォニーホール
The MOST岡山公演。そういや去年は行けなかったよなあー、何があったんやっけ?と思ってカレンダーを開くと、父の身体の状態が急速に悪化していて、その見舞いのため帰省していた。あれから1年・・・・色々ありました。
The MOSTのメンバーは今回も変更があった。過去には佐藤晴真、周防亮介、小林壱成、北田千尋、戸澤采紀なども所属、それらのメンバーが国際コンクールに優勝して超人気ソリストに成長したり、常設プロオケのコンマスに就任したり、カラヤンアカデミーに在籍していたり、などなど、どんどん出世していくんだよなぁ。まるで気鋭の若手弦楽奏者の見本市である。5年前・3年前を振り返ると、「もうあのメンバーが一同に集まることは不可能になったなあ」と。今回のメンバーは国際化していて、リハーサルでは初めて英語を使ったとのこと、このメンバーも「今回限りの奇跡のメンバー」に間違いなくなるだろう。
珍しく開演30分前にホールに着くと、ホワイエでロビーコンサートをやるというではないか。
Vn:福田廉之介、Vc:菅井瑛斗のお二人による、ヘンデル作曲(ハルヴォルセン編)のパッサカリア。
こんなテンションのロビーコンサートって、聴いたことがないってぐらい、才気ほとばしる見事な演奏。表情が目まぐるしく変化し二人の研ぎ澄まされたセンスがスパークする。
私の下手な感想よりも、動画で見れます。
https://youtu.be/QmBXtq6ACq4?si=GoThfqQ30NYydgEI
エルガー/弦楽セレナーデホ短調
今回のプログラムの中で、エルガーの弦セレを特に楽しみにしていた。なかなか岡山では演奏されないからね。
前述のとおり、The MOSTはメンバーを入れ替えているが、溢れる才気ほとばしるフレッシュかつ濃厚な響きは受け継がれている。このエルガーでのあまりにも繊細な、特にピアニッシモでのあまりにも美しすぎる表現に脳内モルヒネ出まくりである。このメンバーが一堂に集まってのリハーサルは、それほど時間が取れなかったはずだが、微に入り細に入り丁寧に作り込まれていた。
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第2番変ロ長調から第1楽章(渡邉桜子)
チャイコフスキー/『なつかしい土地の思い出』より「メロディー」(西江春花)
ヴィヴァルディ/四季「冬」第1楽章(西江春花)
The MOSTの結成以来のテーマは3つある。①クラシック演奏会による地域活性化、②日本全国でのクラシック音楽の普及、 ③10代以下の次世代を担う音楽家の育成。である。特に③のテーマへの福田廉之介の思いは強く。この弦楽アンサンブルのレゾンデートルと言っていい。しかし、東京公演ではオーディションによる10代の次世代の音楽家の登場は無かったようだ。そこに大都市部での主宰者と聴衆の距離の遠さを私は感じ取る。岡山ではトップレベルのスペシャルタレントたちのアンサンブルを楽しむことと、次世代の地元の音楽家を応援し特別な舞台を用意することは(今回の厳しい客の入りを見ると、「なんとか・・・」という前置詞が入るが)両立するが、東京ではなかなか難しいことなのだろう。
今回登場したお二人は過去にもThe MOSTと共演しており、西江さんはフェスティバルでの室内楽を間近に聴いた事もあって、記憶に残っていたのだが、この間の進化を存分に感じた。楽譜の音を的確にとらえるだけでなく、特にヴィヴァルディの「冬」では音楽の流れを作り出す力が格段に進化していた。やはり10代の成長力は凄いな。
ピアノの渡邉さんも、ベテランのプロ奏者でも(テクニック面で、というよりも音楽の構築力が求められる、という点で)難しいベートーヴェンの2番を相手に、よく健闘していたと思う。
チャイコフスキー/弦楽六重奏曲《フィレンツェの思い出》
元々ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ2の編成の曲をコントラバスを入れた11人による弦楽合奏に編曲したもの。編曲者はクレジットされていないが、秀逸な編曲だった。
冒頭の第一印象は「うわっすっげー迫力!交響曲みたい!」「バリカッコええ!!!」だ。2000人キャパの岡山シンフォニーホールを震わせるような迫力だった。
美しいメロディーやロマン的なオーケストレーションが前面に出るチャイコフスキーの作品の中では、かなり異例の、対位法を駆使する堅固な構成を持っている。そうした曲の構造をかっちり抑えつつ、クラシック音楽という再現芸術の枠から飛び出すように、その場その場で即興的に生み出される変幻自在の表現、鮮烈に移り変わるヴィジョンに酔いしれた。
それにしてもこの11人しかいないアンサンブルが、20代~30代前半の若手の俊英が集まっているとはいえ、ともすれば50人規模の管楽器も入ったオーケストラにも伍するような迫力と、聴衆を陶酔させる音の響きを、なぜ創り出す事ができるのか?
まず、個々の奏者が自分の音を持っており、単なる点ではなく垂直方向の軸としてしっかりとしてものがある。そしてその軸がフレージングという横の流れを作っている。
一人一人の奏者が創る面的な豊かな音の広がりが11人分より集まって、共有された方向性に沿って一気に立体的でパワフルな音の重なりを創り出す。
やっぱり強烈な個がしっかりとあることが大事なのだと実感する。
客席は3階席は閉鎖。1〜2階は4〜5 割ぐらいの入りだから、700人ぐらいだろうか。そもそも箱がでかすぎるという問題もあるのだが、クラシックファンだけでなく、全てのクリエイターに足を運んで欲しかったなと思う。デザイナーやプランナー、プロデューサーだけでなく、企画書や交渉・営業に行き詰まっているサラリーマン、指導法に悩む先生、自分の店を構える事業主などなど、何かを生み出す創り出す仕事に携わる人、みなが見るべき舞台だと思う。彼らの創作現場に触れる事は本当に刺激になる。
最後に、あえて苦言。設立1年目はホームページやSNSでの情報発信が非常に充実していたが、今回はホームページの更新はされていないのはおろか、コンサート情報サイトのWEBぶらあぼにも登録されていなかった。
当日配布されたプログラムもデザイン性は優れているが、曲紹介や演奏者の情報もほとんど無かった。ネット情報が充実してこそのシンプルなプログラムであろう。
これほどの演奏内容の充実してアンサンブルの情報を、それに最低限そこアクセスしようとしている人に必要な情報が届いていない現状は実にもったいないと思う。
福田さんが超多忙なのはわかっている。だからこそ、こうした情報発信について全面的に外部に委託する時期に入っていると思う。素晴らしい音楽家を集め、スポンサーも集めてこられるのだ。今後の為にも自分の片腕となってくれる事務方は見つかる筈、あとは福田さんが完ぺき主義を排して人に任せることがでくるかだと思う。